高野山親王院所蔵
『高野大師行状図絵』
真言宗の開祖・弘法大師空海の偉大な足跡と逸話を絵巻物に仕立てたものを「高野大師行状図画」、または「弘法大師行状絵詞」などといいます。
弘法大師に関する絵巻物が画かれるようになったのは、鎌倉時代のなかころからといわれ、現在、五系統のものが伝存しています。第一は「高祖大師秘密縁起」十巻本系統で六十六条からなり、第二は「高野大師行状図画」六巻本系統で五十条からなります。第三は同じく「高野大師行状図画」の名称で十巻本からなり、九十二条を有します。第四は「弘法大師行状絵」十二巻本系統で五十九条からなり、第五は「版本 高野大師行状図画」十巻本で九十二条からなります。
ここにCD−ROM化しましたのは、もっとも場面数の多い第三の系統に属する高野山親王院本です。絵巻物そのものには、成立年代を知りうる奥書などはみられませんが、付随する文書に「寛文四年」の年号がみられ、これに絵具の色・画きかたなどを勘案しますと、江戸時代前期・寛文四年(一六六四)ころに画かれたとみなしてよいと考えます。
この親王院は、第三系統に属する諸本のなかではやや成立年代が降るとはいえ、元応元年(一三一九)の奥書を有する、もと高野山総持院本の模本とみなされており、もとをたどれば鎌倉末期にさかのぼるものであります。
このCD−ROMは、わが国の安泰と人々の幸せを全身全霊でもって祈られた弘法大師の生涯、そして中世の人たちが弘法大師に何を期待し何を願ったかについて、多くのことを語ってくれるでしょう。
高野山大学 教授 武内 孝善
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